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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)426号 判決 1974年7月17日

控訴人 藤本輝明

右訴訟代理人弁護士 福島等

同 西嶋勝彦

同 福地明人

被控訴人 山下新日本汽船株式会社

右代表者代表取締役 木村一郎

右訴訟代理人弁護士 渡辺修

同 宮本光雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人が被控訴人に対し雇傭契約上の権利を有することを確認する、被控訴人は、控訴人に対し、昭和四〇年二月六日以降毎月二五日かぎり金二万九〇七〇円の割合による金員および同年末日以降毎年末日かぎり金一〇万四六五二円の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決および金員の支払につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次に附加するほか、原判決事実欄の記載と同一(≪訂正等省略≫)であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  海員の雇入契約(乗船契約)と一般的な雇傭契約とは、概念上別個のものであるが、現実には、両者が、一個の契約の実現形態として連続的に存在している。すなわち、海員が下船する際、次の乗船日時が船舶所有者の代理人である船長から指示されるのが通例であり、このようにして雇入契約の更新が間断なく行われ、現に乗船中でない者も船員法上の海員となる。控訴人は、この意味において、本件不帰船のとき船員法上の海員であった。

船員法は、海員の労働保護法として、雇入契約中の海員の懲戒権を船長の専権とし、かつ懲戒の要件・手続等を明らかにしている。したがって、右懲戒権の対象となる海員の行為があったとき、これを船長が懲戒しない場合には、船舶所有者が当該行為につき海員を懲戒したり労働契約上不利益な取扱をすることは許されない。

昭和三八年一一月五日に起った神好丸へのいわゆる不帰船につき、船長は、船員法二一条三号に違反するものとして控訴人を懲戒していないのであるから、右行為を直接かつ最大の理由として被控訴人(以下「会社」ともいう)がなした本件解雇の意思表示は、無効である。

二  会社は、控訴人に対する懲戒解雇の意思表示を撤回し、改めて本件通常解雇の意思表示をしているが、解雇の事由とするところは両者同一であるから、懲戒解雇に値する事由がなければ、本件解雇は無効というべきである。

ところで、会社が本件解雇事由として主張する不帰船その他の事実を総合しても、懲戒解雇に値するものとは言い得ないから、本件解雇は無効である。

三  本件解雇は、不当労働行為に該るから、無効である。

1  本件解雇の根拠となった賞罰委員会の決定(昭和三八年一一月一一日)及び懲戒解雇(昭和三九年一月三一日)をなした山下汽船株式会社は、昭和三九年四月新日本汽船株式会社と合併し、山下新日本汽船株式会社となったが、山下汽船時代の労務政策が右合併以後も引き継がれている。すなわち、会社は、本件解雇以前から、各船に会社の息のかかった者を配置し、又は暴力グループを放置・利用して、船内における組合活動の活発化を未然に察知し切り崩しを策したり、従業員の親睦団体に会社の意を受けた者を送り込み、その民主的運営を要求する声を圧殺しようとするなどの労務政策をとっていた。

また、控訴人が所属する全日本海員組合(以下「組合」という)は、日本におけるほとんど唯一の個人加盟の産業別単一組合であり、陸に上った組合幹部に対し海上で働く組合員の声を反映させる機会が乏しいうらみがあったが、両者の距離をちぢめ組合の民主的運営を求めようとする者が出て来ると、会社は、これを排除するため、あらゆる手段を用いた。

2  控訴人は、昭和二〇年一二月一日組合に加入し、昭和三〇年七月から昭和三六年二月までの間に四船の般内委員・船内幹事長を約三年半、同年七月から昭和三八年一一月までの間に二船の船内委員長・船内幹事を約一年七箇月、昭和三七年五月から船舶部員協会委員を現在まで、昭和三九年九月から組合の全国委員を約二年間、それぞれ勤め、いわゆる沖の組合活動の中心人物であり、常に組合を民主化し乗組員の利益を代表するように組合員と組合幹部とに働きかけていた。たとえば、船内大会の決議事項(大部分は、組合執行部に対する意見・批判)を船内委員長の名によってしばしば組合本部に提出しており、昭和三七年一〇月に開かれた組合大会の席上で、会社の労務管理の実態をあばいた。

控訴人は、また、山下汽船の親睦団体である山洋会の評議員(昭和二七年から同三八年まで)及び幹事(昭和三七年)を歴任したが、当時、山洋会の役員は、組合役員を兼ねており、山洋会と組合とは、その組織及び活動内容において完全に重複していた。このように、同じ実質を持つ山洋会と組合とが会社に並存することとなった理由は、会社が、産業別単一組合である全日本海員組合を通ずるよりも、親睦団体としての山洋会(その構成員には会社の課長、部長も含まれている。)を通じて組合活動に対する支配介入を行なうことがはるかに容易だったからである。控訴人は、昭和二七年ごろ青年層を結集して山洋会の御用化に反対し、その民主的運営を要求して戦い、その後も山洋会の革新運動の中心であった。会社は、山洋会が民主化されようとする事態を見て、新たな御用団体である一志会(部員のみの親睦組織)を作ろうとしたが、控訴人は、これに反対し、その後一志会の解散を画策した会社の勝手な動きに対しても、反対運動の中心となった。

これら控訴人の活動は、組合の機関紙を通じて全国に紹介されたが、会社は、このような控訴人の組合活動(山洋会における活動も、実質において組合活動である。)を快く思わず、本件解雇に及んだものである。

3  なお、解雇手続の点から見ても、会社の不当労働行為意思が認められる。

すなわち、前記一のとおり、船長の海員に対する懲戒事由としていわゆる不帰船があり、船長は控訴人の不帰船につき懲戒していないのに、会社は、急いで賞罰委員会を開き控訴人の懲戒解雇を決定している。のみならず、船員を懲戒するには、懲戒事由となる行為の発端・経過・結果等につき船長が詳細に実情を調査した書面による報告(船員賞罰規程一五条一項、一〇条)及び船長三名が最近の考課表を賞罰委員会に提示すること(同規程一四条二項)が義務づけられているが、本件の場合、右報告も提示も履行されていない。また、賞罰委員会は、必要に応じ、本人又は関係者より事情を聴取する等充分調査審議しなければならない(同規程一五条二項)ことになっているが、会社は、不帰船の事案の真相が不明のまま、控訴人が勾留中の昭和三八年一一月一一日に賞罰委員会を開き懲戒解雇を決定している。これらの事実は、懸案である控訴人の解雇を一日でも早く実現しようとする不当労働行為意思が会社にあったことを物語るものである。

(被控訴人の主張)

一  船員法が雇入契約中の海員に対する船長の懲戒権を認めたのは、海上労働者が危険を伴う生活共同体を形成している関係上、船員に厳格な規律を要求したことによるものであるが、結局は職場の安全を守るためのものであり、使用者の経済的利益を守るためのものではない。したがって、船長の懲戒権の対象は、当該特定船舶につき雇入契約存続中の海員に限られ、懲戒の種類も上陸禁止と戒告のみとされている反面、右懲戒権の働く限りは使用者の企業秩序維持のために課する懲戒罰を排除するとか、基本となる労働契約を解除する権限を停止するとかの法的効果を伴うものでは全くない。

のみならず、本件の場合、控訴人は昭和三八年一一月五日午前八時と定められた帰船時刻に遅れ、同日午前一〇時の予定された出帆時刻にも間に合わなかったため、会社は、控訴人を請暇の扱いで下船させるとともに、代替船員を乗船させたのである。したがって、控訴人は、遅くとも代替船員の乗った神好丸が出帆した時には雇入契約を解除されているのであるから、同船の船長が控訴人に対し懲戒権を行使し得る余地は皆無である。

二  控訴人の主張三のうち、会社の合併に関する事実、主張の組合がわが国におけるほとんど唯一の産業別単一組合であること、控訴人が主張の間組合の全国委員であったこと、山洋会・一志会が、それぞれ会社の従業員全部または部員のみの親睦団体であること、主張の内容の船員賞罰規程が存在することは認めるが、その他をすべて争う。

船内幹事(長)というのは山洋会の役職であり、同じく親睦団体である船舶部員協会の委員と同様組合活動とは無関係である。船内委員は乗船中の組合員から一〇名に一名程度の割合で選出され、その互選によって船内委員長がきまるけれども、これは会社側と直接折衝の任に当るものではなく、右委員(長)の氏名は、会社に通告されることもないから、会社としては、誰が船内委員(長)であるかをほとんど把握していない。また、船員賞罰規程一五条一項後段には、「主管事項に関しては海務部各課長並びに海務監督亦同じ。」とあり、前記不帰船当時控訴人の属していた海務部第二船員課は、部員たる船員の勤怠・成績・賞罰に関する事項を管掌することになっていたが、控訴人の懲戒を議する賞罰委員会においては、当時の第二船員課長宮崎丑喜が詳細に調査した実情を報告して懲戒の審議を求めているのであるから、右規程一五条の不遵守ということにはならない。

(証拠)≪省略≫

理由

一  解雇理由の有無及び控訴人の主張二について

控訴人が、昭和一六年一〇月二一日会社に雇われ船員として勤務して来たところ、会社が、昭和三九年一月三一日附で控訴人に対し懲戒解雇の意思表示をした後、昭和四〇年二月五日にこれを撤回し、改めて法定の予告手当等を提供するとともに本件解雇(通常解雇)の意思表示をしたことは、当事者間に争いがなく、右解雇理由として会社の主張する諸事実に関する判断は、次に附加するほか、原判決理由二(一)(二)(原判決一一枚目表末尾より五行目以下一八枚目裏末行まで)の説示と同一(ただし、同一一枚目裏四・五行目に「土足のまま」とあるのを削り、同末行に「弁論の全趣旨」とあるのを「当審証人谷山龍男の証言」と、同一二枚目裏二行目に「左耳鼓膜障害等」とあるのを「迷路振盪症」と、同末尾より二行目に「あんたが浜中を馘にしたのか。」とあるのを「あんたか。浜中をくびにしたのは。」と、それぞれ改め、同一四枚目裏末尾より三・四行目中「暴力をもって抵抗し」を削り、同一五枚目裏初行「証人熊埜御堂浩」の前に「前記乙二、八号証」を加え、同末尾より三行目に「同年四月」とあるのを「昭和三七年二月」と、同一六枚目裏四行目に「一二条三号」とあるのを「一二条二号」と、それぞれ改める。)であるから、これを引用する。≪証拠説明省略≫

なお、本件解雇及びこれに先立つ前記懲戒解雇の理由がいずれも同一であることは、当事者間に争いないが、前記争いのないとおり、会社は、懲戒解雇の意思表示を撤回した上、改めて本件解雇の意思表示をしているのであるから、右解雇が有効であるためには、通常解雇事由があれば足りるのであり、控訴人主張のように、懲戒解雇に値する事由があることを要するものではない。また、控訴人の非行が船員就業規則所定の懲戒解雇事由(一四条五号)に該る場合でも、右非行に対し同規則上の通常解雇条項(一四条四号)を適用して控訴人を通常解雇に処することはできるものというべきである。

二  控訴人の主張一について

船長は、危険を伴う船舶共同体の責任者として、その安全を確保するため、公共的見地から、海員の船内規律違反に対し懲戒権を行使できるものとされたのであり、懲戒の種類も、上陸禁止と戒告とに限られている(船員法二三条)。したがって、船長の有する懲戒権は、船舶所有者が企業秩序維持のため海員に対して有する懲戒権とはその根拠を異にし、またその内容においても前者は後者より相当制限されているのであり、ある海員の行為につき船長の懲戒権が行使されないからと言って、船舶所有者が当該行為につき懲戒権を行使したり労働契約上不利益な取扱をすることが許されないというようなことはあり得ないから、控訴人の前記主張は、この点において理由がない。

のみならず、船長の懲戒権の対象は、雇入契約中の海員に限られるのであるが、前認定のとおり、会社は、神好丸の船長が指定した昭和三八年一一月五日午前八時までに控訴人が帰船しなかったため、代替船員を乗船させ、神好丸は、同日午後〇時三〇分に出港したのであり、≪証拠省略≫によれば、会社は、右不帰船を理由として同日控訴人との雇入契約を解除することとし、控訴人の代理人である同人の妻に即日その旨を告知したことが認められるから、以後、同船の船長が控訴人に対し懲戒権を行使する余地はないものというべく、控訴人の前記主張は、この点においても失当というべきである。

三  控訴人の主張三について

≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められ、右供述中この認定に反する部分は措信し難い。

1  控訴人は、日本におけるほとんど唯一の産業別単一組合である全日本海員組合に昭和二〇年一二月一日加入したが、組合の全国委員になったのは、会社が控訴人に対し昭和三九年一月三一日附で懲戒解雇の意思表示をしたよりも後である同年九月が最初のことである(以上のうち、控訴人の組合加入の点を除く事実は、当事者間に争いがない。)。

控訴人は、その主張三2のとおり各役職に就いたものであるところ(同人が主張の間組合の全国委員であったことは、当事者間に争いがない。)、船内委員は、乗船中の組合員の中から一〇名につき一名程度の割合で選出され、その互選により船内委員長を決定するのであるが、船内委員長の任務と権限とは、乗船中の組合員を代表すること、組合員の組合活動に関する秩序と統制を維持すること、船内生活における組合員の苦情を組合の機関に報告して解決を求めること等であり、船内委員のそれは、委員長を補佐し、委員長の有する任務と権限とを分担遂行することと組合の規約上定められている。山洋会、一志会は、会社の従業員の親睦団体であり(このことは、当事者間に争いがない。なお、船内幹事(長)は、山洋会の役職である。)、船舶部員協会は、部員(乗組員)の全国的な親睦団体であって、いずれも労働組合ではない。もっとも、船内では、船内委員と船内幹事とを同一人が兼ねる(船内委員長と船内幹事長とは兼職しない。)のが通例であり、その関係もあって、船内幹事会の山洋会に対する要望事項が乗組員の労働条件に及ぶこともあったが、控訴人の主張するように、山洋会の組織や活動内容が組合のそれと完全に重複するようなことはなかった。

2  控訴人は、船内委員特にその長として熱心に活動し、組合員の組合執行部に対する批判・要望等を組合機関に対し卒直に報告して来た。また、控訴人は、親睦団体においても積極的に活動し、たとえば、昭和二七年ごろ山洋会の現状を改めるため青年層を結集したことがある(この集まりは、「革新会」、のちに「山洋会青年部」と呼ばれた。)。

しかし、控訴人のこれら言動が、組合活動として特に会社の関心をひいたことはなく、その他に会社が控訴人の組合活動につき格別警戒していたというような事情は窺われない。なお、昭和三七年一〇月に開かれた組合の全国大会で、外地における現地人の日本人船員に対する脅迫、強盗事件等の対策を討議中、控訴人は、山隆丸の船内委員長として(当時、同人は下船しており、その資格がなかった。)発言し、暴力に対しては暴力を以て答えるべしとの意見を述べ、後日右発言につき、上司である宮崎丑喜から注意を受けた。これは、右大会で、先方の挑発に乗ることなくいかに危険を回避するかという方向で討議されていた折柄、控訴人の発言内容が極めて不穏当であったことによるものであり、これを、控訴人の組合活動に対する会社の干渉と目し得ないことは、明らかである。

3  組合は、控訴人が申し立てた懲戒解雇に対する苦情に基き、労務委員会を開いて調査をした結果、解雇理由となった事実を否定し得ず解雇もやむを得ないとの理由で、昭和三九年五月一二日右申立を却下した。控訴人は、これを不服として苦情の再申立をしたので、組合は、会社と団体交渉の結果、会社は懲戒解雇を撤回し控訴人は任意退職するということで、同年一二月三一日妥結が成立した。ところが、控訴人は、組合役員の説得にもかかわらず、退職を承知しないため、会社は、やむなく本件解雇に及んだ。控訴人は、さらに苦情の再審申立をなしたが、組合は、右申立を、前同様理由がないものとして昭和四〇年六月一五日却下した。

これらの苦情処理に当り、控訴人の組合活動が問題となったこともなければ、解雇が不当労働行為である旨取り立てて主張されたこともなかった。

以上の認定によれば、控訴人は、組合活動として会社から特に注目されるような行動をしていないのであり、控訴人が申し立てた解雇の苦情に対する組合の前記処置及び控訴人の再三にわたる非行を総合して懲戒解雇もやむを得ないとの前記一に引用の認定を合わせ考えるならば、本件解雇は、控訴人の組合活動を原因としてなされたものではなく、控訴人の前記非行特に原判決理由二(一)3の不帰船の事実が解雇の決定的原因となっているものと認められる。したがって、本件解雇が不当労働行為に該るとの控訴人の主張は、採用できない。

なお、控訴人は、本件解雇に先立ち、船長の懲戒も船員賞罰規程一五条の規定による船長の報告書及び同一四条二項の考課表の提示もなされていないこと、また、賞罰委員会が同一五条の規定による充分な調査をもしないまま早急に懲戒解雇を決定したことが、会社の不当労働行為意思を推認させると主張する(主張の内容の規程が存在することは、被控訴人の認めるところである。)。しかし、船長の懲戒権の行使が船舶所有者のなす懲戒又は不利益な取扱の前提要件となるものでないことは、前記二に説示したところであり、≪証拠省略≫によれば、船員賞罰規程一五条所定の報告書(懲戒申請書)の提出は、主管事項に関しては、海務部各課長及び海務監督にも義務づけられているが(同条一項後段)、≪証拠省略≫によると、部員たる船員の人事を司る海務部第二船員課の課長宮崎丑喜は、控訴人の懲戒を提案し、賞罰委員会においてその内容を詳細に説明していることが認められる。また、≪証拠省略≫によれば、船員賞罰規程一四条の考課表は、情状斟酌の上懲戒を軽減する場合に提示すべきものであるところ、本件賞罰委員会における審議の際にこのような事情は全く存しなかったことが認められる。さらに、会社が、昭和三八年一一月一一日に賞罰委員会を開き控訴人の懲戒解雇を決定したことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、当時控訴人は勾留中であったことが認められるけれども、前認定のとおり、宮崎課長は、右委員会で、控訴人の解雇理由につき詳細な説明を行なっており、また、控訴人の再三にわたる暴力的非行を総合すると、その情状は重いものというべきであるから、右懲戒解雇の決定が不当に急いでなされたものとは言い得ない。したがって、控訴人の前記主張は、すべて理由がないことに帰する。

四  結論

以上の次第で、控訴人の前記非行は、会社の船員就業規則所定の解雇事由に該当するから、本件解雇の意思表示が権利の濫用に該らないことは明らかであり、右解雇を無効とする控訴人のその他の主張は、いずれも理由がない。

よって、控訴人の請求を失当として棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺田治郎 裁判官 林信一 宍戸清七)

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